今年のMusic Tomorrow 2015は、2人の作曲家の3つの作品を取り上げる。第63回尾高賞受賞作品は、世界を舞台に活躍している藤倉大(1977-)の《Rare Gravity》(2013)、そして委嘱初演作品は同じく藤倉の《インフィニット・ストリング》(2014)、そして海外の作品として、アメリカを代表するポスト・ミニマルの作曲家ジョン・アダムズ(1947-)の《サクソフォン協奏曲》(2013、日本初演)の3曲。藤倉作品への尾高賞授賞は2009年以来2度目であり、偶然にも同じ作曲家が委嘱初演作で重なるのは、Music Tomorrow はじまって以来のこと。
藤倉とアダムズによる今年のプログラムは、おおまかに見るなら、前衛音楽(ヨーロッパ)と実験音楽(アメリカ)の2つの潮流の現在進行形の出会いといえる。ダルムシュタット夏期新音楽講習会に集い、新しい音楽の方向性を探ろうとしたピエール・ブーレーズやルイージ・ノーノ、カールハインツ・シュトックハウゼンたちに代表される前衛音楽。かれらはヨーロッパの作曲家らしく、音響を合理的かつ理性的に統合しよう試みたが、これは20年以上イギリスに住んでいる藤倉の創作の基本的な路線にある。一方、ジョン・ケージに端を発するアメリカの実験音楽は、ロバート・アシュリー、アルヴィン・ルシエ、クリスティアン・ウォルフ、フィリップ・グラス、スティーヴ・ライヒなど、技法や合理、理性よりもプロセスを重視した方法によって、ポップスを含む幅広い分野に影響を与えた。アダムズはライヒなどのミニマルな方法とロマン的な傾向を結びつけた、その最前線にいる作曲家の1人である。
藤倉の《Rare Gravity》は、母体のなかの羊水に守られた胎児の様子を音にした作品で、「希薄な重力」という曲名の通り、独自の浮遊感のなか、胎児の動きさえ想像させる生命の蠢(うごめ)きが感じられる。そしてN響、ニューヨーク・フィル(とアラン・ギルバート)と、アンサンブル・レゾナンツの共同委嘱による《インフィニット・ストリング》は、ハーモニクスやリズムのユニゾンなどによって弦の糸が収縮・拡散を繰り返していく繊細かつダイナミックな作品だ。
そしてアダムズの《サクソフォン協奏曲》。アメリカでサクソフォンといえばジャズの代名詞であるが、この曲はチャーリー・パーカーやスタン・ゲッツなどジャズ・プレーヤーの思い出に捧げられている(元来、ライヒやライリーなどのミニマルの作曲家はコルトレーンなどのジャズから恩恵を受けていた)。冒頭部分からパーカー風のフレーズ(《They can't take that away from me》冒頭)があらわれるが、音楽の表面よりもその背後にアメリカならではのサクソフォンの声がひしめいている。名手須川展也がどのような演奏を聴かせてくれるか、今から楽しみだ。