また、単一素材で様々な質感を創出するプロセス、言い換えれば、「そうでないもの(本来の構成要素とは異なる要素)」で「そうである(特定の材質や状態にある)」といった「現実」を鑑賞者の頭の中に作り出すプロセスを探っていくことは、人間を知るきっかけを掴むことかもしれません。 現在の研究は、透明や金属といった、「現存(認知されている)」する質感を対象にしています。今後は現実には存在しない、これまでなかったような質感表現は志向しています。素材も、静的な物質から、動きを伴う物質や装置といったものまでをも扱う計画ですが、「現存しない」質感を表現する上で、「現存」する質感を対象とすることは大事なステップだと考えています。すでに知っている質感も、表現手段が変わることで、途端に分からなくなる。自分の頭の中で質感をどう認識しているかを知ろうとする意味では、現フェーズは“質感のデッサン”ともいえるでしょう。
展示内容の構成は、過去の映像成果物に加え、このフェーズにおいて、藤木がどのように「現存」する質感を捉え、どのように再生したかを紹介します。最終的に行き着いた表現(手法)のみならず、暗中模索で制作したもの、思考(試行)の痕跡もいっしょにご覧頂ければと思います。そして、今後の研究についてもちょっとだけ紹介しています。 最後に、本展が皆様方の“新しい物理”へと足を踏み出すきっかけとなりましたら幸いです。 本立体表現研究は科学技術振興さきがけの助成によるものです。 藤木 淳
藤木 淳|1978年生まれ。博士(芸術工学)。表現と原理の関係から、人間と物理の法則を探る、あるいは、それらの新たな関係性を築く研究をしている。現在は,単一素材から様々な素材感や現象を創出するマテリアライゼーションの研究を行なっている。東京藝術大学JST研究員、科学技術振興機構さきがけ研究者、武蔵野美術大学非常勤講師。関連プログラム|TALK「新しい <組成>とは何か」 日時|7月8日(水) 18時30分 – 20時00分(場所:芸術情報センター LAB) ・藤木 淳(研究者) ・伊村 靖子(国立新美術館情報資料室アソシエイトフェロー)